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Yが民俗学を志した動機というのは、村で餓死者が出たことだった。
「なぜこの国はこうなのだ、この貧しさは何とかならないのか」という悲しみを出発点に、農商務省の役人になったり、民俗学に行ったりした。 そういう大きな動機が一つある人は強い。
実際に手がけた研究は、たとえばわらべ歌の研究や、塩の話、木綿の発祥を探るなどさまざまだが、日本の貧しさや、より豊かになるための方法等、生活のすべてにつながっている。 最終的には日本とは何だったのかという根源的な問いにまでたどり着く。
考えてみれば、餓死者が出るような貧しい村に住んでいたことと、民俗学者になること不愉快な体験をパワーに変えるパッション力につながる可能性は、風が吹けば桶屋が儲かるぐらいずれている。 実際、パッションと、現実にやっている仕事というのは直結する必要はない。
パッションは記憶と深い関係がある。 子ども時代、青年時代に、どんな強烈な絵を得たかは重要だ。
最終的にそのときのイメージ、印象というものに、ずっと影響されていくものなのだ。 感情をビジュアルで焼きつけるいま思うと、私にもパッションに火がついた忘れがたい風景がある。
風景と言ったのは、パッションというものを技として使うためには、その瞬間をビジュアルで残すことがポイントだからだ。 先ほども触れたが、パッションになるような体験は、論理的に見ると、ある種、筋違いな怒りや不愉快さがベースになっていることも多い。
実際問題、人は思考より感情に現実的な手触りを感じるものだ。 感情で身体も動いてしまう。
つまり、パッションを得るには、体験の中の感情そのものを、いつでも取り出してライブな気持ちで眺められるように、できるだけリアルな形で残しておくのだ。 「瞬間の思い」をカメラのフレームに収めてしまうような作業、絵にして残すような作業に近い。

映画のワンシーンを組み立てるようなイメージと言ってもいいかもしれない。 Kさんも、そういう子ども時代の風景というのをよく憶えている方だ。
Kさん、「あのときこうしてあげればよかった」という、悔恨や無念など過去のいろいろな思いが写真のように蘇るらしい。 ご自分の本に、幼少期のことを書いているが、やはり一枚の絵のように場面を心に刻み、生きる糧にしている。
私はかなり若いころから、風景とその状況下にいる自分をセットにすると、そのときの感情を温かいままで保存できることに気がついていた。 その風景は心地よい絵であるときもあるが、極めて不愉快な絵であるときもある。

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